会社の給料日は何日にすべきか?
先に結論から
給料日は「毎月 25 日(15 日締め)もしくは 15 日(5 日締め)」に定めることをお勧めします。
この設定は、次の理由から実務的かつ法的に適正です。
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賃金支払いの原則への適合
労働基準法と法人税法で定められた「毎月一回以上、定められた期日までに支払う」という原則を遵守できます。 -
認知の負荷の軽減
締め日と支払日、徴収すべき社会保険料の対応関係が明確になり、計算や説明の負荷が軽減します。 -
実務作業の効率化
締め日から支払日まで十分な期間(10 日程度)を確保することで、事務処理がスムーズに行えます。
このように、法律の遵守と実務作業の効率化を両立するため、25 日(15 日締め)または 15 日(5 日締め)が最適な選択肢となります。
前置き
会社は、従業員を雇用するにあたり、労働基準法を遵守しなければなりません。 労働基準法が適用されるのは、会社の従業員だけであり、社長や役員(同法における労働者に該当しない者)には適用されません。
しかし、実際の運用では、社長や役員も従業員と同様の労務処理を行うことになります。 これは、法人税法上の決まりに加え、社会保険料を天引きする際の業務効率を高めるために、事務処理を一元化することが合理的であるからです。
以下に、基礎知識の確認から順を追って、その詳細を説明します。
賃金支払いの原則
労働基準法第二十四条(賃金の支払)によれば、会社は従業員への賃金支払において、次の「賃金支払いの 5 原則」を守らなければなりません。
- 通貨(日本円)で支払う
- 従業員に直接支払う
- 全額を支払う
- 毎月一回以上支払う
- 一定の期日(例: 毎月 25 日)を定めて支払う
「給料日は何日にすべきか」という問いを考える上で、特に「毎月一回以上支払う」や「一定の期日を定めて支払う」という原則は、会社が給料日を明確に定める必要がある法的根拠となります。
社長や役員も同様
労働基準法は会社の従業員(同法における「労働者」)に適用されるものであり、社長や役員など、労働者に該当しない者には適用されません。
社長や役員への給与は「役員報酬」と呼ばれます。この役員報酬は、法人税法上「定期同額給与」と定義されています。 定期同額給与の定義について、法人税法第三十四条(役員給与の損金不算入)には次のように記されています。
支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与
この定義は、労働基準法の「毎月一回以上支払う」および「一定の期日を定めて支払う」という、賃金支払いの原則と同義と解釈できます。
このように、給与や役員報酬は、いずれも毎月一回以上、定められた期日までに支払うことが求められます。
給与の締め日
会社は設立にあたって、給与の支払日だけでなく、締め日を定めなくてはなりません。法的根拠は次の通りです。
法的根拠 | 備考 |
---|---|
民法第六百二十三条(雇用) | いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」 |
民法第六百二十四条(報酬の支払時期) | いわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」 |
労働基準法第八十九条(就業規則の作成及び届出の義務) | 常時十人以上の労働者を使用する会社のみ |
このうち、民法を根拠とする「ノーワーク・ノーペイの原則」にもとづき、会社は給与計算の基準となる「締め日」を定める必要があります。 締め日を明確に設定することで、日割り計算が適切に行えるようになります。
「ノーワーク・ノーペイの原則」とは、労働者が「労務」を提供していない(欠勤などで働いていない)場合、使用者がその部分の賃金を支払う義務はない、という考え方です。 従って、欠勤や遅刻などの「働いていない部分」を適切に検出し、公平かつ正確な賃金支払いを行うために「締め日」の定めが不可欠ということです。
ちなみに、労働基準法でも会社の従業員(同法における「労働者」)に適用されるものであり、社長や役員など、労働者に該当しない者には適用されません。 社長や役員に対する給与(役員報酬)は、日割り計算されるものではないということです。
社会保険の加入対象
社会保険の加入対象者は「加入条件を満たさないパート・アルバイトなどの従業員を除いた、会社に籍を置く全員」です。
この根拠は、厚生年金保険法第九条(被保険者)と健康保険法第三条(定義)にある「事業所に使用される者」の解釈が、過去の判例から「社長や役員を含む全社員」であるとされているためです。
以上のことから、基本的には全社員に対し、毎月一回以上、定められた期日までに支払う必要があり、社会保険料の天引きを行う必要があることがはっきりしました。
当月分の社会保険料の天引きは翌月の給与からでないとダメ
(保険料の源泉控除)
第八十四条 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
つまり「前月分給与をもとに算出された保険料を当月分給与から天引きする」ということです。
「当月分給与をもとに算出された保険料を当月分給与から天引きする」とお思いの経営者は多いはずです。結構罠だと思います。
従って「会社を 1 月に創立した場合、その前月の 12 月に給与は支払っていないのだから、1 月分給与では社会保険料の天引きは行わない」となります。
さらに、毎月国から届く社会保険料の納付書には「〇月分」と書かれており、前月なのか当月なのかよく分からなくなりがちです。 正解は「前月分給与をもとに算出された保険料」の「前月」が「納付書の〇月分」と一致します。 「当月分給与から天引きする」の「当月」を「納付書の〇月分」に当てはめてはいけません。
まとめると、次の通りです。
- 4 月分給与から徴収する社会保険料は、3 月分給与をもとに算出された厚生年金保険料や健康保険料の合計
- この 4 月分給与から徴収した保険料は、3 月分納付書に対応する
締め日と支払日が月をまたぐ場合
例えば、締め日を「月末」に設定した場合を考えてみましょう。この設定では「1 日 ~ 月末」が基準期間となり、一見すると分かりやすく整然としています。 しかし、支払日が翌月になるため、給与の支払が月をまたぐことになります。
このような場合、「〇月分給与」と簡単に表現することが難しくなります。正確には「〇月末締め△月支払分給与」と表記せざるを得ず、一度の給与に複数の月が関係する形になります。これにより、給与計算や明細書の説明において、認知負荷が高まる可能性があります。
さらに、社会保険料の計算にも影響を与えます。社会保険料は「前月分給与をもとに算出された保険料を当月分給与から天引きする」というルールですから、次のような対応関係の整理が必要になります。
- 前月分給与 = 前々月末締め、前月支払分給与
- 当月分給与 = 前月末締め、当月支払分給与
このような状況では、給与と徴収すべき社会保険料の対応関係が分かりにくくなり、実務処理において混乱を引き起こす可能性があります。
そして何より、賃金支払いの原則である「毎月一回以上、定められた期日までに支払う」にも反しているため、注意が必要です。
賃金支払いの原則に反する流れ:
- 4/1 新入社員 A さんが B 社に入社
- B 社は「締め日: 月末」「支払日: 10 日」
- 4/30 締め日なので給与計算が始まる
- A さんはまだ給与を貰えない = 賃金支払いの原則「毎月一回」に反する
- 5/10 給与が支払われる
- 以降は賃金支払いの原則に沿う
締め日と支払日が同じ月の場合
一方、締め日を「15 日」支払日を「25 日」に設定した場合を考えてみましょう。この設定では「前月 26 日 ~ 当月 25 日」が基準期間となり、支払日が締め日の翌月ではなく同じ月内に収まります。
この設定のメリット
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「〇月分給与」として明確化
- 基準期間と支払日が同じ月に収まるため、「当月分給与」として一貫性を保てる
- 明細書や給与計算の説明が簡素化され、労務担当や支払先の従業員への認知負荷が軽減される
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社会保険料計算のシンプル化
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社会保険料は「前月分給与をもとに算出された保険料を当月分給与から天引きする」というルールがある。この場合、次のような対応関係になる
- 前月分給与 = 前月分給与(前月 15 日締め、前月 25 日支払分給与)
- 当月分給与 = 当月分給与(当月 15 日締め、当月 25 日支払分給与)
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対応関係が直感的でわかりやすくなり、実務処理の効率が向上する
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会社の給料日は何日にすべきか?
以下の点を考慮することで、適切な給料日の設定が見えてきます。
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賃金支払いの原則
- 毎月一回以上、定められた期日までに支払う必要があります。
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締め日と支払日の間隔
- 締め日から支払日まで 10 日程度の間隔を設けることで、給与計算などの労務処理が安定します。
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月をまたぐリスク
- 締め日と支払日が月をまたぐと、「〇月分給与」の認知負荷が増加し、賃金支払いの原則にも反します。
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同じ月内に設定するメリット
- 締め日と支払日を同月にすることで、給与計算の分かりやすさが向上し、賃金支払いの原則にも適合します。
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新入社員への配慮
- 支払日を「25日」とすることで、最初の給与が満額の 50% 近くになるため、入社員の満足度を高める効果が期待できます。